この記事では次のことをお伝えします。
油絵の下塗りには何色が良いのか知りたい
下地材(白)の上から油絵を描いた方が良いのか、またはどんな色で下塗りをすれば効果的かを解説していきます。
- 下塗りは作風に合わせてあれば何色でも良いし、塗らなくても良い
- 鉛筆か油絵具か、下描きによって下塗りの工程が変わる
- 下塗りの効果は塗り残し防止、統一感などがある
もし続きが気になる場合は、記事を読み進めてみてください。
★もくじ★
「下塗り」とは何か?
下塗りとは、油絵を描く前に支持体に色を塗っておくことを言います。
油絵なので、基本的には油絵の具で下塗りします。
油絵の下塗りは何色を使うか
結論として、色は何色でも良いです。
例えば、晴れた空の絵を描く場合や、冷たさを感じる絵にしたければ、人が見たときに冷たいと感じる色である寒色(主に青系の色)を塗れば良いです。
逆に、暖かみのある絵にしたければ、人が見たときに暖かいと感じる色である暖色(黄色や赤色)を塗れば良いです。
また、暗い色(茶色や黒色など)を下地に塗れば、重く落ち着いた雰囲気が出ます。
一方、中間色のグレーでも良いです。グレーなどの中間の色が良い理由として、光の色の場合は白に近い色を使うことになり、逆に陰影は黒に近い色になります。例えば下塗りが白色の場合はハイライトを塗ってもどこに塗ったのかほとんどわからなくなり、逆に黒色の下塗りの場合は、陰影がわからなくなります。
なので、グレーの下塗りをすることによって光の部分を塗っても、暗い色を塗っても見分けがつきます。
また、何回か重ねて明るい色や暗い色を作る場合、中間の色なので、それぞれの色づくりを短縮できる利点もあります。
なお、白色の下塗りは全体的に薄塗りで明るい絵を描く場合や、透明感のある肌の色が多い画面を作る場合に有効です。
地塗り兼下塗りでも良い
キャンバスボードやシナベニヤパネル・シナベニヤ板に油絵を描く場合は、ジェッソなどで地塗りします。
地塗りは、目止めや定着性を高めるために塗りますが、この地塗りのときに、色がついたジェッソを塗ると、地塗りの上から油絵具で塗ることができます。(なお、白いジェッソのあとでも油絵を描くことはできます。)
下塗りのメリット
下塗りのメリットは絵の具が定着しやすくなり、発色が鮮明になりやすいです。
また、下塗りを全体に塗っておくことで塗り残しを防ぐことができます。
下塗りをすることによって絵の具が重ねられ、より複雑な画面になり深みが増していきます。
逆に下塗りをしないと下地の色や塗り残し感が出てしまう可能性があります。
有色下地と無色の下地
有色とは、「色がついている」という意味です。逆に、無色は「色がついていない」という意味になるかと思います。
白と黒は色がないと言われていて、それを混ぜて作るグレーも明度はありますが、色味がないです。
なので、白・グレー・黒は「色がない」ということになります。
ですが、有色下地とは、個人的には「白以外」なのではないかなと思っています。
ちなみに有色下地のことを「インプリミトゥーラ」(イタリア語)と呼ぶそうです。
有色下地の場合、色を中間のトーンにして徐々に明るい色や暗い色を作っていくことによって絵の立体感や深みが増していくと思います。
下描きはどの段階で行うのか?
下描きは、下塗りの前かまたは後か迷うかもしれません。
下描きは下地材が乾いてヤスリがけした後、つまり下塗りの前に行ってください。
下描きしたらフィキサチーフをかけて画面に定着させます。定着させると、下塗りするときに支持体が鉛筆の色で汚れずに済みます。
下描きによって工程が変わる下塗り
下塗りを行う段階は2通りあり、何の画材で下描きするかによって工程が変わってきます。
- 鉛筆で下描きする場合
- 油絵具で下描きする場合
以上です。
鉛筆で下描きする場合
鉛筆で下描きする場合は「フィキサチーフで定着させた後」に下塗りします。鉛筆で下描きする場合の下塗りの工程は以下です。
シナベニヤパネルを支持体とした例で見ていきましょう。
支持体:シナベニヤパネル
- 下地材(ジェッソ)を塗る
- 下地材(ジェッソ)を丸3日乾かす
- 表面をヤスリがけする
- 下描きする
- フィキサチーフで定着させる
- 下塗りする
- 下塗りを7日ほど乾かす(または拭き上げる)
- 油絵を描く
以上です。
なお、下地材は塗りやすいジェッソとしました。
下塗りを拭き上げる場合は、その日に油絵が描けます。適度に画面が滑って描きやすくなるかと思います。
油絵具で下描きする場合
油絵具で下描きする場合は「表面をヤスリがけした後」に下塗りします。油絵具で下描きする場合の下塗りの工程は以下です。
こちらもシナベニヤパネルを支持体とした例で見ていきます。
支持体:シナベニヤパネル
- 下地材(ジェッソ)を塗る
- 下地材(ジェッソ)を丸3日乾かす
- 表面をヤスリがけする
- 下塗りする
- 下塗りを乾かす(または拭き上げる)
- 下描きする
- 油絵を描く
以上です。
油絵具で下描きする場合は、下描きを乾かした後に油絵を描くか、または油絵を乾かさずにその日に描き始めるか決めます。
なお、下塗りしたその日に油絵を描き始める場合は、下塗りの油絵具をティッシュペーパーなどで拭き上げてから塗りましょう。下塗りの上から塗った油絵具が適度に滑り、塗りやすくなります。
もし、拭き上げなかった場合滑りすぎてうまく絵の具が乗りません。
油絵の下塗りで色を使うときの注意点
油絵で下塗りするときの注意点は、下描きが消えないようにすることです。
せっかく描いた下描きが見えないと時間の無駄になってしまいます。
なので、鉛筆で下描きして定着させた後、アクリル絵の具の黒色などで見えるようになぞっておいたほうが良いです。
または、カーボン紙を使って下描きします。
カーボン紙の色は鉛筆より線が濃く、目立ちます。なので、カーボン紙で濃いめの色を出しておくと下描きが見えづらいのを防ぐことができます。
なお、下塗り後に油絵具で下描きする場合は下塗りを終えてから下描きするので、この限りではありません。
下塗りの活かし方
下塗りの活かし方は以下です。
塗り残し
下塗りの上から塗らずに残して、わざと画面の中に塗り残し箇所を設けることで統一感が出ます。
透明・半透明色で下塗りを透かす
下塗りの上から透明・半透明色のみを使うことによって、下塗りの色を透かすことができます。
こちらも塗り残し同様、統一感が出ます。
仕上がりと正反対の色を塗る
仕上がりの色と反対の色を塗る方法もあります。仕上がりが明るい絵の場合、暗い色を下塗りするといった具合です。
または、補色を塗ります。
例えば、
- 仕上がり→赤の場合、下塗り→補色の緑
- 仕上がり→黄の場合、下塗り→補色の紫
といった具合です。
相反する色に塗っていくことで、絵に深みが出てくるようです。
また、ところどころ下塗りが見えることによって、下塗りと表層がお互いを引き立て合う絵になります。
どういう絵を描きたいか
目を引く絵にしたいのか、素朴な絵を描きたいのかなどなど、あなたがどういう絵を描きたいのかによって下塗りが変わってくると思います。
目を引く絵とは、色が単調にならずに複雑でいつまででも見ていられる絵です。
どうやって描いたかわからない考えさせられる絵は、必ず何かしらの工夫がされているはずです。
逆に単調な絵は下塗りをほとんどせずに薄塗りで仕上げている可能性があります。
どちらが良い悪いではありませんが、どのような狙いで描くのかを考えて下塗りしていきましょう。
もし下塗りに失敗したら…
下塗りの色を間違ったと思ったら、今塗っている下塗りを7日間ほど乾かしてから、新しい色を塗りましょう。
油絵は何度でも修正できる画材です。
なので、間違ったら乾かして塗り直せばOKです。
ただし、乾いたら油絵具でついた凹凸をなくすことはできませんので、塗り方に気をつけましょう。
下塗りに適した画溶液
下塗りに適した画溶液は以下です。
- 揮発性油
- ペインティングオイル
などです。
揮発性油とは、ペトロールやテレピンのことです。
一方、ペインティングオイルは揮発性油や乾性油、樹液などが配合されたものです。
なお、ポピーオイル(乾性油)で下塗りされる方もいらっしゃいます。
揮発性油は油絵具を溶かす性質があり、粘度のある油絵具も量によってはサラサラになります。なので、支持体を立てかけていると下塗りが流れ落ちる可能性があります。
そうならないように、あらかじめ支持体を平らなところへ置いてから下塗りしましょう。
下塗りを行うときのポイント
下塗りを行うときのポイントは、7つほどあります。
- 油絵具と画溶液を混ぜて塗る
- これから描くモチーフの印象を残すような色を塗る
- 全体に塗る(狙いがあれば部分的でも良い)
- 色に迷ったらグレーや黄土色などを塗る
- 拭き上げればすぐに油絵が描ける
- 下塗りは1枚1枚行う
- 同時進行の場合は複数枚の下塗りでも良い
上記のような感じです。
油絵具と画溶液を混ぜて塗る
油絵具と画溶液を混ぜて塗りましょう。
画溶液と油絵具を混ぜて塗ることで、スムーズに塗り広げることができます。
これから描くモチーフの印象を残すような色を塗る
例えば、透明感のある肌の人を描く場合、血管の緑色、または指先や肌の赤色、または黄土色などを下塗りで使います。
全体に塗る
部分的に塗る方法もありますが、統一感を得るために全体に同じ色を塗ったほうが良いかと思います。
ですが、部分的に別の色を塗ることもできます。
色に迷ったらグレーや黄土色などを塗る
下塗りの色に迷ったら、グレーや黄土色などを塗ればよいかと思います。
理由は、ハイライト(白)を塗っても暗い色(黒系)を塗っても色が識別できるからです。
なお、下描きがわかるような状態をキープしたいので、下塗りは黒くしすぎたり白くしすぎないようにしたいところです。
拭き上げればすぐに油絵が描ける
油絵具の下塗りを乾燥させずにティッシュペーパーなどで拭き上げれば、すぐに油絵が描けます。
逆に、下塗りした後に何もせず描きすすめれば、下塗りと混ざったり、滑りすぎて色が塗れません。
しかし、ティッシュペーパーなどで油分を取り除けば程よく筆が滑ってなめらかに塗ることができます。
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下塗りは1枚1枚行う
下塗りは1枚1枚行っていきましょう。
理由は、絵ごとにメインの色や雰囲気は変わってくるからです。
ただし、同じ作風の絵を何枚も描く場合は、下塗りの色を統一したほうが良いかもしれません。
なお、下塗りの油絵具や画溶液はほんの少しだけ出して無駄にしないように使いましょう。
足りなければ足せば良いだけですからね。
同時進行の場合は複数枚の下塗りでも良い
油絵は乾くまで時間がかかる絵の具です。最低でも7日くらいは乾かさなければいけません。なので、描くのに時間がかかる人は乾燥時間が長くなり、完成までに相当な時間を要します。
そんなとき、例えば油絵を同時進行で3枚描くとすれば、下塗りをまとめてすると効率が良いです。
- ①②③の下塗りをする→乾かす
- ①の油絵を描く→乾かす
- ②の油絵を描く→乾かす
- ③の油絵を描く→乾かす
- ①②③の油絵を乾かす
- 2、3、4、5の繰り返し
上記のように複数枚の油絵を描くと、乾かす時間は変わりませんが、絵を描ける日が多くなります。
また、毎日油絵を描く時間があるとして、7枚の絵を描き、それぞれを描いた後7日間乾かすとすれば、毎日油絵を描くことができます。(※1度で絵が仕上がる描き方の場合は、この限りではありません。)
油絵の作風は色々、下塗りも色々
油絵の作風は色々あります。それと同じように下塗りのやり方も人によってさまざまです。
- イエローオーカー(黄土色)を使う人
- ローアンバー(茶色)を使う人
- 下描きと下塗りを同時に行う人
- 補色で下塗りする人
などなど…
さまざまな下塗りがあります。共通していることは、全体の調子を整えれば何色でも良いということです。
わざと筆跡を残して、色のムラをつける方もいます。
筆は平筆を使う人、丸筆を使う人などさまざまです。
要は、自分の作風に合った下塗りができればそれでOKです。いろいろ試しながら自分に合った下塗りをしていきましょう。
下塗りをしておくと、油絵具や画溶液のおかげで上の層に塗る油絵具が乗りやすくなり、適度に筆の滑りが良くなります。
また、見た目には色がはっきり見えやすくなります。つまり、発色が良くなるんですね。
下塗りすると油絵具が全体に行き渡るので、たとえ塗り残しが発生しても塗り残し感が気にならなくなります。また、わざと塗り残しを作ることもできます。
油絵具は乾けば溶けない性質があるので、乾いた下塗りの上に塗りたい色を塗ったり、透明や半透明の油絵具で層を作り、下塗りを透かしながら複雑な画面にすることも可能です。もちろん不透明の油絵具で覆い隠すこともできます。
まとめ
- 下塗りは作風に合わせてあれば何色でも良いし、または塗らなくても良い
- 鉛筆か油絵具か、下描きによって下塗りの工程が変わる
- 下塗りの効果は塗り残し防止、統一感などがある
下塗りは、下塗りの色を活かして油絵を描く場合に効果的です。
また、下塗りが上層に塗られた不透明の色で覆い隠されたとしても、上層に塗った色の発色が良くなります。
とはいえ、幾層にも塗り重ねる描き方をしている場合は下塗りしなくても良いかもしれませんね。
もし、色が単調な場合は塗る色が薄かったり、色のバリエーションが少なかったりする可能性があります。そんなときは下塗りをすると絵が変わる可能性があります。
今までの絵を変える意味でも、他の人の絵と差別化するためにもさまざまな色の下塗りを試してみると良いかもしれませんね。
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