この記事では次のことをお伝えします。
油絵の下塗りに使う油が知りたい
油絵の下塗りに使う油は、主にテレピン(ターペンタイン)やペトロールなどの「揮発性油」です。
また、「下塗り」や「地塗り」を混同されている場合があるので、「下塗り」や「地塗り」のちがいについても解説しています。
油絵でやってはいけないことも解説していますので、ぜひご覧ください。
- 油絵の下塗りの油は、「揮発性油+油絵具」でOK
- 画面全体に単色で塗っても下描きしてもOK
- 下塗りの効果は、油絵具の定着と発色の良さ
もし続きが気になる場合は、記事を読み進めてみてください。
★もくじ★
油絵の下塗りの油は何がいいのか?
油絵の下塗りの油には、テレピン(ターペンタイン)やペトロールなどの「揮発性油」が適しています。
揮発性油で油絵具を溶き、支持体に色をつけていきます。
これによって下塗りの上に塗る油絵具がしっかりと吸収され、定着します。
油絵の下塗りの乾燥時間
揮発性油と油絵具を使った下塗りによる乾燥時間をご紹介します。
これは、下塗り時の揮発性油と油絵具の割合にもよりますが、
「おつゆがき」のように揮発性油にほんの少しの油絵具でサラサラな状態で下塗りする場合は1日、油絵具の割合が多い場合は3~4日乾燥させた後に、下塗りの上から油絵を描いていきます。
乾燥を早めれば、それだけ早く上の層を塗ることができます。
なので、下塗りは乾燥を早める役割を持つ揮発性油を使って油絵具を溶いたほうが乾きやすくなります。
ちなみに揮発性油は、液体が蒸発するので何も残りません。なので、乾いた後に触ってみると干からびたような肌触りがします。
下塗りの塗り方
下塗りのやり方は様々ですが、大きく2つに別れます。
- 画面全体に単色で塗る
- 下書きのように色をのせながら描く
上記のような感じです。
油絵の下塗りの効果
下塗りをすると、 そのあとに塗った油絵具が定着しやすく、また発色にも良い影響を与えてくれます。
下塗りとの複雑な色合いを作ることができるので、他の作品との差別化にも役立ちます。
また、白の下地にいきなり油絵を描くと単調な色になりがちですが、下塗りを行うことで単調であっさりとした印象を防ぐことができます。(単調、あっさりがねらいの絵の場合はこの限りではありません。)
なお、下塗りなしでも油絵は描けます。お好みのやり方で油絵を描いてみましょう。
下塗りの後の油はどうするのか?
下塗りの後
下塗りが乾いたら、油絵を描いていきます。
揮発性油を入れた油壺に、ポピーオイルやリンシードオイルなどの「乾性油」を加え、油絵具につけて油絵を描いていきます。
この段階での油の割合は、
揮発性油>乾性油
です。
一つの容器の中に揮発性油と乾性油を、揮発性油の割合を乾性油より多めにして入れます。
この油で油絵を描いていきます。
下塗りの間に油絵が浸透し、かたくくっつきます。
仕上げ段階
油絵の仕上げ段階の油の割合は、
揮発性油<乾性油
です。
一つの容器の中に揮発性油と乾性油を、乾性油の割合を揮発性油より多めにして入れます。
油絵の描き始めは揮発性油が乾性油より多かったですが、描きすすめていくと油の割合が逆転し、今度は乾性油を揮発性油より多く使用して混ぜて使います。
このことを守りながら、油絵を描いていきましょう。
この割合を守ることで、透明度があたえられ、画面が丈夫になります。
ちなみに乾性油は、乾いても体積があまり減りません。
油絵の下塗りの油は絵具を定着させるための準備段階
油絵の下塗りの油は、絵具を定着させるための準備段階です。
というのも、水彩絵の具は絵の具を薄める場合、水を使います。一方、油絵具は油を使って薄めます。
これは主に揮発性油と乾性油です。
水彩絵の具も油絵具も、支持体に絵の具がくっつかないと絵として成り立ちません。
つまり、顔料と接着剤が含まれていないといけないわけです。
水彩絵の具は「アラビアゴム」という水溶性ゴムで画面に定着します。一方、油絵具は「乾性油」で画面に定着します。
油絵の下塗りは主に揮発性油で行い、わざとカサカサの状態を作ります。その上に乾性油が乗ることで油絵具がしっかりと食いつく画面が作れます。
ちなみに、揮発性油だけでは乾性油のように固める性質はなく、またツヤのないドライな画面になります。
なので、揮発性油を多く使いすぎると艶が失われてしまったり、絵具がはがれてしまう可能性があります。
揮発性油だけを使うのは下描きの段階にとどめて、完成に近づくにつれて乾性油の割合を多くしていきましょう。
油絵に使用される油の種類
揮発性油
揮発性油はテレピン(ターペンタイン)、ペトロールがあります。油絵具はもちろん、他の画用液を薄めるときに使います。
乾くのが早いので、下塗りや鉛筆などの下書きの後の、筆による下描きをするときに便利です。
なお、多めの揮発性油で油絵具を溶かして描くことを「おつゆがき」と言います。おつゆがきの際はサラサラの状態で絵を描くので、支持体を立てかけずに寝かせて行いましょう。
もし、立てかけて下描きしたい場合は油絵具が垂れないような粘度に調整して下描きしましょう。
乾性油
乾性油には、ポピーオイルやリンシードオイルがあります。
乾性油は酸化して固まる油のことです。
乾性油は「ポピーオイル」や「リンシードオイル」などの商品名で販売されていますが、実は既に油絵具の中に含まれています。
- 乾性油
- 顔料
油絵具はリンシードオイルやポピーオイルで練って作られているんですね。
なので、油絵具だけで絵を描くこともできるわけです。
乾性油は、顔料を画面にくっつける役割をもっています。
水彩絵の具やアクリル絵の具は、それらに含まれる水分が蒸発して固まるので体積が減ってしまいますが、油絵具には水分が含まれていません。
油絵具に含まれているのは乾性油という油です。油絵具は体積がほとんど変わらずに残る性質を持っています。
なので、減らない体積を利用して立体的に仕上げることも可能です。
なお、乾性油は揮発性油に比べて乾きが遅いです。その日のうちに加筆できなければ7日ほど待ってから描かなければいけません。
当然、油絵具に混ぜる乾性油の割合が多くなれば、乾くのにも時間がかかります。
ペインティングオイル
ペインティングオイルは、下塗りの段階から完成までこのオイルだけで油絵を描くことができます。
別名、調合溶き油と言います。「調合」というだけあって、さまざまなものが含まれています。
- 揮発性油
- 乾性油
- 乾燥促進剤
- 樹脂
なお、ペインティングオイルだけで油絵は描けます。
さらに、ペインティングオイルに揮発性油を加えたり、乾性油を加えたりして描くこともできます。
樹脂
樹脂は、乾燥を早めたり、艶を出すために使う油です。
天然樹脂であるダンマル・コーパル・マスチック、化学合成のアルキド樹脂などです。
画面保護材
完成した油絵に使う画面保護の油は、タブロー、タブロースペシャル、クリスタルバニスなどです。
ホコリや有害ガスなどから守る役割があります。
クリーナー
筆を洗う際に使うのは、ブラシクリーナーです。筆洗油とも言われています。
これは、油絵制作時に使用する油です。
また、制作後のクリーナーもあります。こちらは油ではなく水性の筆洗液で、油分を分解してくれます。
毎日のお手入れで清潔なアトリエを維持して気持ちよく制作できるようにしましょう。
なお、水性の筆洗液は製作途中に使用できません。油絵具に混ぜないよう気をつけましょう。
このように、油絵の「油」と言ってもさまざまな用途にわけられていることがわかります。
その都度必要なものをそろえていきましょう。
油絵で怖いトラブル
油絵の下塗りで揮発性油を使用し、油絵を描いていくときには乾性油の割合を多くしていきます。これを基本として油絵を描いていきましょう。
基本を守らずに描いていった結果、せっかく完成した油絵の剥離などのトラブルが起こる可能性があります。
なので、
- 油絵具の上にアクリル絵の具
- 乾性油の上に揮発性油
- 揮発性油だけで油絵を描く
などを極力避けましょう。
これらの極端なことをしなければ問題は起こらないかと思います。
油絵の初心者が描画で持っていたい油
初心者が描画で持っていたい油は主に2つで、
- 揮発性油
- ペインティングオイル
です。
揮発性油は、さきほど説明したように主に「下塗り」で使用できます。
また、揮発性油はペインティングオイルを薄めることも可能です。ペインティングオイルだけでは粘度が高いと思ったときに少し混ぜて油絵を描いていけば良いです。
油目線で考えた油絵の制作工程
ここからは、油目線で考えた油絵の製作工程をご紹介します。
あらかじめ、地塗り、下書き、下書きの定着は済ませておきましょう。
下塗り(下描き)
油絵具の下描きから始めていきます。
画面全体に単色で塗っても良いですし、例えば絵具一色を使って鉛筆などの下書きをガイドに、明暗や形をとっても良いです。
このときに使うのが揮発性油です。
はじめの段階なので、揮発性油を多めに使い薄い色で塗っていきます。
明るい部分は暗い部分より揮発性油を多めにしたり、何も塗らずにその周りをボロ布で拭い明るさを表現したりできます。
なお、揮発性油が多くなると、筆のコントロールが効かなくなるので気をつけましょう。
揮発性油は塗っているそばから乾いていきます。なので、油絵具との割合を見極めながら描いていくと良いですね。
下描きが終わったら1~4日ほど乾燥させましょう。
描き始め
下描きが乾燥したら、油絵を描いていきます。
描き始めは固有色を塗っていきましょう。例えば、青いコップなら「青」、りんごを描くなら「赤」という具合です。
油の割合は、
揮発性油>乾性油
上記の割合で描き進めます。
油絵を描いたら7日ほど乾燥させましょう。
~完成
徐々に細部を描いていき、
- 描き始め~:揮発性油=乾性油
- ~完成:揮発性油<乾性油
上記のように揮発性油と乾性油の割合を徐々に変えて、最後には乾性油が揮発性油より多くなるようにします。
ただし、乾性油だけでは粘度が高すぎます。
なので、細部を描くとき「細く描きたいのに、思ったより線が太くなる」場合は揮発性油を足して粘度を下げましょう。
完成したら、じっくりと乾燥させます。
画面保護
油絵具を10日ほど乾かせば表面が乾いています。なので、指触乾燥用の画面保護材を塗ることができます。
指触乾燥用の画面保護材は「タブロースペシャル」や「ラピッドタブロー」です。
また、6ヶ月ほど乾燥させれば塗れる、有害ガスからも保護してくれる画面保護材があります。それは「タブロー」です。
6ヶ月という期間は、何かと言いますと「完全乾燥した期間」のことです。
完全乾燥とは、油絵具の中までしっかりと乾いている状態です。指で押したときに油絵具の弾力がなく、硬い状態です。
なお、厚塗りであれば6ヶ月以上から1年ほど経たないと完全乾燥してくれません。
下塗りと地塗りは別物
下塗りと地塗りは別のことを言います。
地塗り
地塗りは、油絵を描くための下地のことを言います。キャンバスの目が目立つから凹凸を減らしたい場合、キャンバス以外に油絵を描く場合などに行います。
キャンバス以外の支持体に油絵を描く場合は、油絵の具が直接つくと支持体が劣化してしまいます。油絵の具が染み込まないようにする必要があるんですね。
地塗りには、「ジェッソ」のような水性の地塗り材、「クイックベース」のような油性の地塗り材があります。
油彩・アクリル兼用のキャンバスには「ジェッソ」
油彩専用のキャンバスには「クイックベース」
というように、使い方をわけます。
油彩専用のキャンバスにジェッソは使えません。油彩の上にアクリルは厳禁です。のちに上層のアクリルが剥がれ落ちる恐れがあるからですね。
下塗り
一方、下塗りは絵を描くための準備を行います。
統一感や絵具の食いつきを良くするために、油絵具を揮発性油で説いて画面全体に単色で塗ったり、形や明暗を描いたりします。
地塗りの上に施すのが下塗りなんですね。
まとめ
- 油絵の下塗りの油は、「揮発性油+油絵具」でOK
- 画面全体に単色で塗っても下描きしてもOK
- 下塗りの効果は、油絵具の定着と発色の良さ
油絵の下塗りの油は基本的には「揮発性油」です。
しかし、ペインティングオイルを使っても下塗りすることができます。
乾くのが早い揮発性油と、さまざまな油が含まれたペインティングオイルでは描き味が変わります。
それぞれ試してみて、塗りやすい塗り方で下塗りしてみましょう。